電力事情

「電力小売自由化」欧米ではどうなっているの?

電力自由化により値下がりを期待する方も多いと思いますが、
もしかしたら今後逆に値上がりしてしまうのでは…。
先行して自由化されていた外国では、自由化後どうなっていったのでしょうか?

アメリカの

全米50州のうち、最大24州で自由化

2014年末時点では15州とワシントンD.C.のみで実施

アメリカ・カリフォルニア州では2001年に自由化中止!?

電力自由化により「電気料金が安くなるかも!」という期待を持っている方が
ほとんどかもしれませんが、

「逆に値上がりするの?」「頻繁に停電が起きたらどうしよう」

など不安になる方もいるでしょう。

そのような漠然とした不安が出てきてしまっているのは、先行して自由化された
アメリカの事例のせいかもしれません。

アメリカにおける電力自由化の歴史

1979年に英国ではサッチャー政権による国有企業の民営化推進の一環として、
電力事業もその対象となりました。

そして、サッチャー首相と同じく西側の先進諸国における、新自由主義の
旗手であったアメリカのレーガン大統領の後を継いだ、ブッシュ政権の時代に
電力市場の自由化を推進する、「エネルギー政策法」が成立しました。

その後に誕生したクリントン政権の時代でも、引き続き「市場原理」の推進が
踏襲され、電力事業における「送電線の開放(オープンアクセス)」が義務付けられ、
1996年から2000年頃にかけて、全米24の州とワシントンD.C.において
電力の小売自由化が断行されました。

「大停電などが多発」!アメリカで発生した電力自由化の負の影響と問題点

アメリカのカリフォルニア州では、1996年より電力自由化を開始し、1998年には
小売の自由化も行われました。

具体的には、発電会社と電力の販売(小売)会社の分離を推進し、大手電力会社には
電力の卸売市場からの電力調達が義務付けられていました。

その後、カリフォルニア州で2000年の夏からその翌年にかけて、
天然ガス価格の上昇や、ITブームによる電力需要の拡大、猛暑の影響などが重なり、
電力卸売価格が急上昇しました。

小売価格への転嫁が困難になり、各電力会社の経営状況が急激に悪化し、
大規模な輪番停電まで行われた「カリフォルニア電力危機」が発生してしまいました。

結果として、カリフォルニア州では2001年に小売自由化自体が中止されています。

その際、発電事業者が天然ガス価格の上昇による原材料価格を小売価格に転嫁し、
小売事業者の経営が悪化しました。

発電事業者は利益を優先し、小売価格への転嫁以外にも、電力供給の抑制を
行った他、さらにはモラルに反した価格引き上げを行う事業者もあり、全米的な
社会問題にも発展しました。

その他にもアメリカでは、2003年に北米大停電が発生し、復旧まで2日近く、
完全復旧には1週間以上かかる大規模障害でした。

これらの電力の自由化に伴う弊害が顕著となります。
大停電の主な原因は、電力の自由化により、電力供給の質が低下したことが
その大きな原因だと言われています。

それ以降のアメリカにおける電力自由化の動きは、結果として電力の安定供給対策が
強化されますが、2014年12月の時点で自由化が実施されているのは15州
およびワシントンDCのみとなりました。

停滞・後退したということは、悪い印象しか与えてません。

イギリス

-CHECK!-プール制度って何?(イギリスの場合)

1 運転価格とすべての発電事業者が翌日に運転を希望する
発電プラントの出力から入札
2 運転価格と安いプランとの出力を入札
3 最後に落札されたプラントの発電価格で取引価格が決定される。

イギリスの電力自由化とは?

1990年から段階的に自由化が進められ、1999年には一般家庭も含め、完全自由化
されました。

発電と送電を独占していた国営の発送電局が発電会社と送電会社に分割され、
同じく国営配電局も民営化されて配電会社となりました。

当時イギリスの電力価格が高騰していたことを受け、電力自由化によって
市場改革を実現し、消費者の負担を減らすことが目的とされていました。

市場の競争が激しく、合併や買収の動きも多かったため、「ビッグ6」と呼ばれる
6大電力会社グループが生まれました。

イギリスの電力自由化の目的は電力卸売価格を低減することにより消費者の負担を
減らすことが目的で行われました。

電力自由化が行われた初期の段階である1998年から2002年にかけて卸売価格は
40%下落しました。

ところが、その後しばらく上昇に転じています。

というのも、最初に卸売価格が下落したのは新規参入が増えたことによる競争の
拡大が主な要因であり、根本的な市場改革が実現したわけではありませんでした。

ですので、イギリスの電力自由化が成功したとは言いにくいのです。

イギリスの電力自由化から学ぶ

イギリスでは、各社間の競争が激化するにつれ、料金メニューが多様化し、
内容が複雑になりました。

このような状況で、消費者が料金メニューを選びやすくするために多くの
電力比較サイトが発達しました。

このおかげで、消費者は自分の生活スタイルに合わせた電力会社と料金プランを
選ぶことが可能になりました。

日本でも、イギリス同様サービスや料金形態の多様化してきています。

ですが、電力の値段が下がるのか、それともサービスが下がるのかということには
注意してみなければいけません。

2016年から始まる日本の電力小売全面自由化によりどのような影響が出てくるかを
考えるにあたって、既に電力自由化が進んでいる国々の事例やその歴史から
学べることは多いでしょう。

日本の電力自由化が成功といえるのか、それとも失敗に終わるのかということは、
消費者のニーズと生産者の思惑がいかに一致するのかということにかかっています。

ドイツ

ドイツの電力自由化とは?

1998年に小売電力だけではなく、送配電部門も含め完全に自由化されました。

約4000万世帯、市場規模として4.5兆円もの市場開放でした。

自由改善は8大電力会社がほぼ独占供給をしていましたが、競争力を維持するため、
合併や買収によって4大電力会社へと変わりました。

しかし、市場のシェアは低下しています。

異業種参入した電気事業者が大きなシェアを獲得した時期もありましたが、
大型倒産の事例もあって、消費者に不安を抱えさせたこともあります。

ドイツの電力自由化は成功したとは言えません。

ドイツには歴史的な背景もあり、電力会社は地域ごとに供給会社がありました。

現在でも、地域限定系の電力会社をメインに1100もの電力会社が、合計すると
1万種類以上に及ぶ電気料金プランを提供しています。

特にベルリンやフランクフルトなどの主要都市に住んでいる消費者には、
約100社近い電力会社の選択肢があります。

こんなにも電力会社があると、どれを選べばいいか全くわかりませんよね。

そこで、フランスなどでも取り入れられていた電力会社比較サイトが
設立されたのですが、そのサイトが1000以上もできてしまい、まずどのサイトを
利用すればいいのかわからないという致命的な問題が起こってしまいました。

ドイツの電気市場は消費者にとって全く優しくない、本当に複雑な電力市場
になってしまったのです。

ドイツの電力自由化における最大の問題点は、消費者の信頼を失っている
点にあります。

特に、その傾向は、新電力に対して顕著で、消費者は電力自由化前からある
電力会社の大企業に立ち返っているという状況にあります。

ドイツの電力自由化から学ぶ

ドイツの新電力企業は、初年度を大幅に割引を提供した「新規入会キャンペーン」を
数多く展開しています。

一方でその中には、小さく「いついつまでに解約しないと、自動的に契約更新」
などの条項があり、翌年度からは非常に高額な料金を請求されるケースもあります。

その結果、新規電気事業への消費者の信頼は失われていきました。

日本も新規顧客を獲得するために様々なキャンペーンを展開しています。

そのキャンペーンが悪いわけではありません。

サービスの内容をきちんと整備することが必要なのです。

さらに、電力会社比較サイトにも注意すべきことがあります。

ドイツの電力会社比較サイトでは中立性のない紹介がなされ、これも消費者の
不信感をあおる形になりました。

本来は、電力・ガスの比較サイトが中立的に消費者目線で監視し、情報を
公開していくべきなのです。

ですので、日本の電力会社比較サイトはしっかりと中立性を保ちつつ、
電力会社紹介をしていかなくてはなりません。

フランス

フランスの電力自由化とは?

フランスでは2000年に電力自由化法が制定されましたが、実質的にはEUの規定により
1999年2月から段階的に電力自由化が実施されました。

電力自由化が始まった当初は年間消費電力量1億kWh以上の需要家約200軒が対象
でしたが、2000年5月に1,600万kWh以上の需要家約1,600軒、2003年2月には
700万kWh以上の需要家約3,300軒、さらに2004年7月には産業用・業務用需要家の
すべてへと順次対象が拡大されました。

そして、2007年7月に家庭用を含むすべての需要家の全面自由化が実現しました。

しかし、フランスでは長年規制料金とよばれる制度があり、電気事業で自由に
競争などはそれほど活発には行われませんでした。

フランスでは全面自由化が始まった後も政府が運営する電力会社が占めるシェアが
大きい状態が続いています。

この背景には規制料金と市場料金の関係が影響しているのです。

規制料金は本来発電などにかかる費用を回収できる水準で設定され、市場競争とは
関係ありません。

一方、市場料金は、その名の通り市場競争により料金が設定されます。

しかし、規制料金の方が市場料金よりも割安となる状態がずっと続いたため、政府が
運営する電力会社から他の事業者に乗り換えるお客さんがあまり増えなかったのです。

そのため、電力の自由化はほとんど意味をなしていなかったのです。

2009年に、フランス政府は大規模な産業用・業務用需要家への規制料金を
2016年以降に廃止することを発表し、やっと電力自由化の動きが活発化すると
考えられています。

フランスの電力自由化から学ぶ

フランスでは電力自由化が始めって以来かなりの年数がたちました。

ですが、長らく政府の関与が強く残ったことからなかなか競争が進みませんでした。

日本でも、電力の自由化によって電気事業の活性化が期待される一方でどれだけ
政府の影響力が及ぶのかというような懸念もあります。

電気事業が活性化するためには、政府がこの電気市場にはほとんど関与しないことが重要です。

フランスでは、政府が関与し、規制しすぎたために電力の自由化が全く
進みませんでした。

日本は、現在はほとんど政府が関与せず、自由市場を貫いているので、この調子で
政府が関与せずに電気事業を見守っていくことが重要です。

これからいかに電力の自由化が成功するのかということは、ここにかかっています。

値上がり理由とは?市場の寡占化も理由のひとつ

国によって電気料金に細かな動きに違いはありますが、自由化直後しばらくは
激しいし状況により緩やかな値下がり傾向となった国が多いといえます。

2000年以降は燃料費の高騰という原因もあり、値上がり傾向となっている国が
多いような気がします。

イギリスでは市場の寡占化と料金規制の撤廃が、値上がり傾向の理由として
指摘されました。

日本においては、自由競争となるため、電気料金の値上げが発生する可能性は
否めません。

ただし海外事例に学んで、慎重に進められたことによって、どの電力事業者と
契約しても安定供給は約束されています。

仮に倒産などが起こっても、即座に送電が停止されることはあり得ないので、
他国と比べるとこの安心感は大いなる特徴になります。

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